皆さんこんにちは。『中国法務の扉』へのご訪問、ありがとうございます。弁護士の岡部真記です。
今週は、セミナー、セミナー録画、所内勉強会講師、発表…とイベントフルな1日でした。
6月後半からたくさんのセミナーがあり、常にマラソンしているような状況になっているので、話すこと自体は慣れてきたのですが、録画はまだ全然慣れません(今回は、セミナーの音声に問題があったので録画を後からお送りしました)。日本語なのに謎の発音になったり(もともとが関西弁で、標準語風、名古屋風が混じって、ふと、何弁でもないおかしなイントネーションに…)、急にサービス精神が出て変な話を始めたり…しかもやり直しができるというのが曲者なんですよね…。編集能力があればよいのですが、ないので(誰か教えてください…)、結局何度も撮ってしまってグッタリしました(それでもまだやり直したい)。
さて今日は、訴訟費用の敗訴者負担を取り上げます。
よく依頼者の方がお怒りになるのが弁護士費用問題です。
「私は悪くない。裁判になれば必ず勝てる。なのに相手方から弁護士費用を取り立てられないとは何ごとか!!!」
そうなんです。日本では弁護士費用は原則各自負担。勝訴しても自分が支払った弁護士費用は戻ってきません。「なぜ相手が悪いとはっきりしているのに、こちらが費用を負担しなければならないのか。おかしいのではないか!!」とよく言われます。
皆さんもそう思いませんか?
日本でも、敗訴者負担を導入するべきではないかと議論された歴史があります。
しかし導入されていません。なぜか。
(ものすごくシンプルにいうと)
大企業や大病院等と戦えなくなるから。
相手方の弁護士費用の負担を恐れて正当な権利を主張することをひかえてしまう可能性があるから。
弁護士費用、最近は独自の料金表を作成している法律事務所も増えていますが、以前使われていた日弁連報酬基準をベースにしている法律事務所が未だ多いと思います。決して安くはありません(しかし安ければよいというわけでもありません)。弁護士から費用を聞いて「弁護士費用、高すぎる!」と叫んだことのある方もいらっしゃるかもしれません。
普通の法律事務所でも安くはないのに、大企業や大病院などが選ぶ法律事務所は、さらに高額の報酬レートであることがほとんどだと思います。
怖くないですか?「相手の弁護士費用はいくらくらいかかってるんだろう…!もう裁判はやめておこう…」となってしまいます。
そういうわけで、極めて一部の例外を除いて敗訴者が相手方の弁護士費用を負担をすることはないわけです。
政府資料を見ると、イングランド・ウェールは原則敗訴者負担を採用しており、韓国では訴訟費用は敗訴した当事者が負担するものとしつつ、訴訟費用については別途規定があり、段階的に上限がある建付けのようです。
中国はどうなのか。ジェトロの資料によると(中国における債権回収ガイドブック (2020 年 9 月)、裁判では通常(敗訴者負担)不可。一部の法律規定は曖昧であると指摘されています。例えば、著作権法49条などでは侵害を阻止するための合理的費用を賠償額に含むことが規定されており、実際に勝訴者の支出した弁護士費用の負担を命じた判例はあるものの、これ以外のほとんどの裁判では認められていないそう。
ひどい目にあっているのに持ち出さなければならない費用があるのは理不尽だなと思うことも多いです。「訴訟の類型や金額などに応じて一部敗訴者負担にしてもよいのでは?」という気もするところですが、その基準を作ることが非常に難しいということは容易に想像できます。訴訟の類型とか言い出すと、類型の認定が違うという別の訴訟にもなりそうな…。一定程度の萎縮効果は絶対出ますしね。
物事は一方向から見るとそれらしく見えますが、また別の角度から見ると違った景色があります。
…ということで(?)、ヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』は本当に名作だなと改めて思います(中国でもたくさん売っていました。読んだことのない方、本屋さんで是非見てみてください!)。
それではみなさま、よい週末&一週間をお過ごしください。周末愉快!